今日午前中商品を見てくれという依頼があった。尊敬する知人の紹介なので受けた。通常理由を聞いてお断りすることもある。非常に腹立たしい事はただで見ろと、開口一番で言われる人。お金がかかりますがというと、憤慨する方。こんな方は病院にいって、診察料も踏み倒しかねない人だと思う。
鑑定なり、鑑別でhappyな案件は一件を除いて、今までに全くない。皆さん、何かの不安を抱えて、お持ちになるのだと理解している。今日もunhappyな結果だった。まず、鑑定と鑑別の違いを簡単に。
鑑定
これは、ダイアモンドの品質を特定すること。
鑑別
まず石の種類を特定。さらに本物か偽物か処理の有無を特定。
鑑定依頼の場合、一応鑑定士の資格は持っている物の直接の判断は避けている。往々にして言いづらいことも多いので、知り合いの鑑定所に送り、4C-Carat,Color,Clarity,Cut-を特定して貰う。詳しくは鑑定書についてと2007年度GIAカットグレーディングの大幅変更のまとめ参照。
鑑別の場合、鑑別機器が揃ってないので、鑑別所におくり、鉱物名、天然、合成、処理の有無を特定して貰う。口が裂けても見た目では答えません。宝石鑑定士の資格を取るために半年サンタモニカにあるGIAに通いましたが、究極のところ「見た目で答えるな」と言うたった一言を教わりに行ったような気がする。
まず書きやすいので唯一のhappyだった案件。
3年前にご夫婦で来店なさった方が、義母が亡くなって、遺品から出てきたリングを2点お持ちになった。一つは0.5カラット代のきれいで素直なダイアモンド。もう一点は緑色の石。月桂樹の葉の形(マーキスカット)でヒスイと思われた。枠のデザインから、40年以上の物と推定できた。厚みも十分で、色は当店のヒスイと同等か、それ以上だった。処理の有無を確認するために写真撮りはしない簡易鑑別をお奨めした。鑑別書という物は、本物か偽物かを記すだけで、売り手の責任逃れになっているに過ぎないからだ。その分の費用は商品に乗っかってくる。
おあずかりしてほぼ一週間で戻ってきた。結果は無処理の天然ヒスイだった。非常に私も嬉しくなった。いい結果をお伝えできるからだ。お客様がもう一回ご来店なさった際に説明して当店のヒスイをお見せして300万円以上の価値があるともいった。お客様は当惑されていたのが印象的だった。枠が相当痛んでいて、リフォームをお奨めしたが、お客様は、義母の実の娘さんに譲るといって帰って行った。
どんな方が鑑定鑑別を依頼されるか。
戦前満州から持ち帰った方。
これが結構多いのです。日本軍が満州でルビーの合成も手がけていたのでしょうか.ルビーはレザー光線の増幅器として使われるので合成の開発も19世紀からと長いものです。一番心苦しかった体験も書いておこう。以前、S百貨店に宝石を卸す会社に勤めていたときのことだ。仙台の駅前に、系列の百貨店ができて、キャンペーンイベントの依頼が来た。これが「熊倉浩先生の無料鑑定鑑別相談」というタイトルだった。後で、先生だけは外して貰ったのだが。老夫婦が目を輝かせながらいらっしゃった。開講一番「このルビーは、ここにあるどのルビーよりきれいで大きいが、一体何千万くらいの価値があるのか」というご質問。店頭で接客した物がすごいですねーなどと言っている。ルーペで覗くと、一番分かりやすい合成だった。ヴェルニュイ法で作られた合成でしたの写真のように結晶の成長線がカーブを描いている。
この老夫婦は5千万から1億はするだろうと思ってらっしゃるのです、真剣に。これは辛かったですね。「19世紀から作られている合成ルビーです」とお答えしたときの落胆ぶりは今でも思い出すほどだ。
国外で買われた方
まず原産地。バンコクのルビー、サファイア。オランダのダイアモンド。オーストラリアのブラックオパール、香港、中国のヒスイ等々。原産地はお安いですよ、とガイドさんから言われるのかしら。まず、天然石だったら、値段には関係なくラッキーだと思うべし。GIAで知り合った名古屋の合成宝石を作っている会社の息子さんが言っていたが、大口のお客さんはタイのバンコクだといっていた。一番合成宝石の流通が多いのは原産地なのです。そして、それを買うのは観光客です。取引先だったルビー、サファイアの輸入やさんもたまに合成ルビーなどが混ざっていたりして、バンコクの取引先ともめることがあった。しかし専門業者には合成は原則売りません。文句言いにまた、バンコクに来るからです。ですから、この方は合成石はきちっと引き取らせていました。観光客はもう来ることはないでしょうし、安心して合成ルビーも売ります。そして泣き寝入りしてくれるし。
オランダのダイアモンド。ここで、合成はほとんどありません。これはスキポール空港でも売っていますし、観光旅行のコースに必ず入っているダイアモンド研磨工場もあります。これは国を挙げての詐欺に近い。これは観光用のデモンストレーションです。99.9パーセントイスラエルから研磨済みの物を輸入しています。ヨーロッパにも鑑定所があり鑑定もついていますが、これはアメリカや日本の基準ではありません。日本で、もう一度鑑定にだすと大幅にグレードが落ちて帰ってきます。今まで、お値段も聞いたこともありますが日本で買う価格の倍、お支払いになった方もいました。
中国、香港のヒスイ。これは99.9パーセント処理してあります。今、きれいな未処理の緑のヒスイはマーケットには出てこないということを覚えていて頂きたいと思います。含浸処理などで色の処理がされています。
数年前、鹿児島のお客様がみえました。上海で買ったんだけどどうしても気になるので、ときれいな緑色をしたリングをお持ちになりました。ヒスイとして買ったとのこと。話しぶりからすると数百万はお支払いになったようです。「現地だから、安いだろう、いや安いはずだ」といったような欲がわくのでしょうか。結果はストレートの処理石でした。気の毒な気持ちになります。
オーストラリアのオパール、ブラックオパール。以前は圧倒的に合成オパールが主流でした。メキシコでブラックオパールを買ってこられた方もそういえばいました。ここでは撮れないのですけど、ブラックオパールなど。最近はお土産やさんも手がこんできて、合成などは売りませんが、未だかつて、お値打ちという物には巡り会いません。どうしてそんな値段を払ったのか聞きたいケースが多いです。
異業種のお店で買われた方。
大半は家具屋さん、ベッドのメーカー、呉服屋、それにブティックです。それ以外には職域販売などがあります。これについては、考えさせられる事が多いです。皆知り合いから買っているのです。見ず知らずの人からというのでもありません。知らない物を平気で売るというのはどこかおかしいんではないか、ということです。知らないというのは宝石のみではありません。それがどのくらいの価値があるかを知らずに売るという無責任さが不思議でありません。値付けも全部業者任せです。これは百貨店にも言えていますが。正札とは正しい札と書きますが・・・・・ 半額、7割引当たり前の売り方。これは正札でないことの証左です。宝石専門店で、もし正しい札をつけていれば3割引などあり得ないのです。幾ら負けて貰ったと言うのは幻想です。大阪では、4割引が外商では当たり前だと言います。店先でも。ダイアモンドをおろしているときは取引先も大阪にあり月一で言っていましたが、大体店先の値段が東京の物よりも高くてビックリしたんですが、これで納得しました。値引き分込みの札と言いましょうか。
「金を貸すので、値段を教えてくれ」、「頂いた物のお礼をするので、値段を教えてくれ」
という方が一番しつこく値段を聞いてきますが、一切お断りしています。責任が持てないからです。それと無責任に好きな値段を答えるのも性にあいません。これらのお客様は残念ですが憤慨して帰られる方が多いです。
今日の方はやはり知り合いから買ったとおっしゃっていました。2点で170万円。一つはまともでしたが、もう一つはのけぞるような値段でした。皆さんは知り合いから百万円の骨董品をお買いになりますか。
このようにして、鑑定鑑別依頼はあまり乗り気になりません。
