
上の写真が私が資格をとった、GIAの以前の鑑定書です。
鑑定書はダイアの総合的な目で見た美しさを必ずしも反映していないのは確かな事です。このことを少し掘り下げて書いてみたいと思います。これには続編があります。GIA鑑定書の改訂後のまとめです。
上の写真はGIA(米国宝石学会)の鑑定書です。今のところ「カットの総合評価」はどこにもありません。
ダイアモンドについている鑑定書について
鑑定書はダイアの総合的な目で見た美しさを必ずしも反映していないのは確かな事です。
日本では鑑定書が安易に作られすぎている事をご存知でしょうか。私が在籍していたGIAにも鑑別機関がありましたが、1通の鑑別書の値段は日本の2倍か3 倍します。そして一日に同じ会社から受け付ける石の数を制限するところもあります。これはお国柄の違いでしょうか。ですから、会社としては手持ちの大きな 石を優先して出します。日本ではダイアといえば小さい物は0.1カラットの物でも鑑定書をつける傾向にあります。そして1通の金額は安いですし、千個でも 鑑定書は受けつれてくれます。このような事情の違いから、日本では安易に鑑定書を作ると思われます。アメリカでの経験では、鑑定書は少なくとも1カラット 以上の特殊な石(Dカラーだとか完全無傷の石なと゛)につけられる事がほとんどで、0.3カラット0.5カラットのダイアモンドには一般的に作られませ ん。GIAも日本の要望も汲んで、小さいダイアモンドにも作成するようになりましたが・・・
このような事情で日本では「販売促進用の手段」としての鑑定書が普及したと思います。 ダイアモンドの知識がほとんど無い人でも、鑑定書の説明をするだけで、なんとなく専門家の響きが出てきます。残念ながらダイアモンドを販売するというより、鑑定書の記号を販売しているような感じがします。
私は、鑑定書がまったく無駄だとは思いません。鑑定書があるおかげで盗まれたダイアモンドの同一性が証明できて、盗品の確定ができます。しかし、お店自体 が、責任の全てを鑑定所に押し付けているような気がしてなりません。なぜなら販売する物は、販売する人間(お店)が、知識を持ち、販売する物に第一の責任 を持つという事が、原則だと思うからです。「宝飾品市場」などを書かれた山口遼さんが「宝石を売るという事には書画骨董の次に、売り手と買い手の間に大き な知識の差が無いといけないのに日本では、素人が平気で宝石を売っている」と嘆かれていたのをよく思い出します。宝石を買うのにも、書画骨董昔の茶器を手 に入れるようなリスクもあります。 皆さんはそんなお店を知っていますか。幸い私には、骨董のエキスパートの知り合いがいます。
もうひとつ強調したいのは、鑑定書では必ずしもダイアモンドの美しさを完全には反映できないという点です。ひとつには、原石そのものの良し悪しの違いが大 きいと思います。うまく言葉にはできませんが、目で見た上品さ、ルーペを通してみた時の生地の潤いなどがとても違います。それらは反映する場所は鑑定書に ありません。図抜けてきれいなダイアモンドに案外平凡な鑑定結果がしかでずにがっくりする事も少なくありません。
すでにご存知かもしれませんが以下、鑑定書の項目の主観的な説明をさせていただきます。
Color カラー
ダイアはFancy color(Pink,Blue,Fancy yellowなどなど)以外は、DからZまでの表記で分けられます。これは、ダイアを蛍光性の無い白い紙などをバックにして真横から見、マスターストーン (基準になる石)E,F,Gなどの間におきどのマスターストーンよりも明るくてどれよりも暗いかと目で確認して決めます。慣れてきたらこれを迷う事はまず ありません。暗くなるのは主に窒素の含有量に左右されます。Dカラーはミネラルウォーターだとイメージしてください。LMNのあたりからは、ダイアを上か ら見て、黄色みが確認されるようになります。ここで、日本のブライダルリングに使われるものは、普通F以上というのが通り相場のようです。おそらく、 G,Hカラーのブライダルリングは見つけるのが難しいと思います。 G以下はダイアじゃないよと日本人の取引先の方から言われたときはショックでした。 それでは、G以下のきれいなダイアモンドがかわいそうではありませんか。私はF以上のきれいなダイアモンドもそれより窒素含有量の高い、少しくらい、しか しとても美しいダイアモンド両方とも好きです。 カット同様、「これはEでいい色でカットも申し分がありません」というセールストークにつながります。 残念な事にFより上のカラーのダイアは、希少性の問題から、1カラットあたりの値段も高くなります。日本の場合は、FとGを境にして値段の開きが、大きす ぎると思います。
一応私は、資格を持ち、ダイアモンドの買い付けにも携わってきた専門家だといえると思います。 私が、D、E、F、Gのダイアを並べられて、上から判別しろといわれても不可能です。それだけの些細な明るさの違いなのです。ましてやこれを枠に留めた ら、判別は絶望的です。それでもD、E、Fのカラーをお望みでしょうか。 色の違いのみで、約一割ずつ値段が違っていきます。選ぶ候補の幅が大きい事は悪い事ではありません。
Clarity 透明度
この尺度も希少性を反映させようとの努力から生まれた尺度です。ダイアモンドの中にどれだけの結晶や割れ目が含まれているか、いないかという事で決めます。10倍の拡大鏡(ルーペ)を使いトレーニングを受けた人間が何を認識できるかで違ってきます。以下
| Flawless |
何も含まれていない |
| Internally Flawless(IF) |
内部には何も含まれていない |
| VVS1,2 |
Very Very Slightly Included |
| VS1,2 |
Very Slightly Included |
| SI1,2 |
Slightly Included |
| I1,2,3 |
mperfect |
ここで無疵といわれると、いいものだと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これもダイアモンドの美しさは反映してはいません。カラーの項でもお話しましたが、VS2までは、人間の目には識別不能です
Cut カットについて。
鑑定書のカット総合評価
まずはっきりさせておかなければいけないのは、日本以外のしっかりした鑑定所では、カットの総合評価は今のところ載せていません。例えば私がトレーニング を受けたGIA。そして日本の鑑定書に記載されているカット評価は全て日本人の造語で、日本以外では通用しません。「Heart and Arrow」はイスラエルでコンピュータ制御された機械で研磨されていました。この言葉が出来立ての頃、買い付け先のアントワープで知り合いのユダヤ人か ら「日本じゃ、ダイアをお尻の方からみるのか」と皮肉たっぷりに言われたのを鮮明に覚えています。まったく彼のいう通りで、どうして裏からハートが見えな きゃなんないのか、という問いに何の説明も言い訳もできませんでしたから。もうひとつは日本人が馬鹿にされているなとつくづく思った事です。このハートは ダイアの反対側から、特別なめがねで見ます。これには角度等の比率が決まっていて、その通り研磨すると出る現象です。斜めから光線を当てるとハートもア ローも無くなります。このカットの定義の破綻は後でもう少し詳しく書きます。これほどまでに、今鑑定書に記載されている言葉は、特殊な日本だけのローカル ルールの上に成り立っているのです。そして、「excellentじゃなければダイアじゃない」、「これはHeart and Arrowがでるすばらしいカットのダイアです」、「これは減点ゼロのtriple excellentの最高のダイアです」といったセールストークがまかり通っているようです。それぞれのダイアモンドはそれぞれの美しさがあるので、それ を説明するという努力と姿勢と知識がないがしろにされているのが現状です。
GIA在学中に学習用にdeduction(減点)を使って、カットが良いとされているダイアからどのくらい乖離しているかの点数を出しました。しかしこ れはあくまで「学習用」です。そして厳重に注意されたのはお客様にはこれは説明しないようにと。なぜならばたったこれだけの事でお客様がカットの普通なダ イアに必要以上の偏見を持ってもらわれては困るからと。そのダイアでも十分それなりの価値があり、美しさがあるし、これを説明できるのが専門家なのだと。 反対に日本では、そのひとつの違いを大げさに煽っているように見えてなりません。
総合評価を始めて使ったのは中央宝石研究所だと覚えています。皮肉な事に、最初一番良いとされた評価は「very good」でした。いつからか、「excellent 」という評価に変わり、今度は、「heart and arrow」やら「triple excellent」などの用語がいつの間にか使われるようになっています。その後日本の鑑定所だけが、中央宝石研究所に引きずられるような形で、総合評 価をつけ始めました。小売に携わる人々がこれを強く要望したからです。
以前は、ダイアのロットを検品するのは楽しい作業でした(何十個か入った物を品質ごとに振分け、値段交渉 をします) それぞれの原石の特徴をつかんだ研磨工が(もちろん腕の悪いのもいますが)その石の最大限の美しさを引き出そうとしたり、最大限の経済価値を引き出そうと したりした跡がよくわかったからです。 そして工場ごとにカットの癖や、特徴が出ていました。一つ一つのダイアモンドに石自体の個性がありました。しかし、カット評価がエスカレートするにつけ、 全てのダイアが金太郎飴のように同じ顔になってきたので、まるでずっと同じ物を繰り返し繰り返しルーペで見ているような徒労感を感じるようになりました。 日本向けのダイアモンドがすべて同じ顔をし始めたのです。 皆さんがなじんだカット評価(excellent,heart and arrow,triple excellent などなど)はコンピュータ制御された機械で研磨される工業製品だということを頭の隅に入れておいて欲しいのです。もしくは「リカット」(再研磨)された、 整形美人かもしれないということを。
カットで考慮されていない事
カットの総合評価は数学者トルコフスキーの二次元モデルからどれだけ乖離しているかという数字を基にしています。(研磨状態などは人間の識別によります が) これはダイアが平面であり、真上からの垂直に入る光の反射具合のみを考えた場合です。前述の「Heart and Arrow」なども、この二次元モデル上にあると思ってください。斜めからの光線が入っても、ハートやアローは出現しません。しかし、ダイアは三次元で、 真横や、斜めからも光は入っていきます。そこにこのカット評価の破綻があります。斜めから入ってくる光線の説明がつけられないからです。先ほど減点の事を お話しました。そしてGIAの先生からは、この事はお客様に説明不要といわれたのも納得きます。平面モデルだけでは説明できないのをGIAはよく心得てい るのです。日本にはこの現象のみをまるで究極の真実のように説く人もいますが、大きな誤解を招くセールストークをしていると思います。
カットもそれほどすばらしいわけではないのに、よく光るダイアや、素直な表情の石があります。これは人間が「目で見て」感じる事のできる事です。「てりの いいダイア」と亡くなった父がよく言っていましたが、確かに、表面反射を考慮しないこのモデルは乱暴でもあります。 ダイアのそれぞれの美しさは、「カット評価」では測りきれないものといってもいいと思います。 これについては、又後で説明させていただきます。ダイアは、2,30分裸眼で見比べていくとどれが気に入った物か、判ってくるように思います。 こうして選ばれたダイアを身につけるという事が、ダイアを楽しんでいただく原点だと思えてなりません。
カラット(carat)について
5カラットで1グラムになります。1カラットは0.2グラムです。香料貿易が盛んになっていた地中海地方に「カラチ」という木の実があります。この実の重 さが比較的一定だった為、香料の計量に使われていたみたいです。この実の名前がなまって、今の「カラット」になったらしいです。
鑑定書のしめくくりに
私は個人的にブライダルは最低0.4カラット以上のきれいな物、できれば0.5カラットあった方がいいと思っています。なぜなら、今良くても10年後、 20年後、さらにそれ以上の年月楽しみ続けるには、ある大きさが必要です。手が老けていくからなのでしょうか。あまりに小さい、例えば0.25カラットの 物ですと、将来寂しすぎると思います。 加えてリフォームのデザインも年代相応の物が少なくなります。 日本では、お客様がそれ以外のダイア(例えば、0.55ctでG VS1 Very Good)を見たり、選んだりする機会がとても限られていると思います。ほとんど無いといっても差し支えないかもしれません。0.25カラットダイアと、 それと同じ程度の予算できれいな0.5カラットのダイアモンドとどちらをお選びになるでしょうか。もちろん、D flawless,triple excellensのダイアもご準備できますが。
見た目は大きさの違いはすごいですが、それ以外はさほど変わらないということはお約束できます。そのために、ダイアのルース(枠に留まっていない石)を一 つ一つ検品して選んでいますから。まず目で見て、きれいかどうか。10倍のルーペで見て、石の肌がしっとりしているか、テーブル等の角度はいいかなどを チェックします。そして色が鑑定と同じにでているかを調べます。最後に透明度がVVSの場合は14倍のルーぺで、60度ずつずらして調べます。そして鑑定 の結果が私の結果が同じになり、なおかつ目で見てきれいな石のみを選びます。 今までの経験から、例えば変なExcellentよりもずっときれいなVery goodも良くありました。 単純なGoodの評価でもすばらしいものもあります。当店には昔父が輸入した2.025ct,F VVS2,Fairとの評価のダイアモンドが陳列してあります。これが又きれいなのです。古典的な「アントワープカット」で父のダイアモンドの好みがでて いる石です。目で見ててりがあり美しいのです。
鑑定書の日本での特殊な使われ方で、気になるのは、お客様の選択しが極端に狭められているのは不幸な事です。概算になりますが、お客様一人一人がこの鑑定 書の使われ方で、約50パーセント以上割高になったダイアモンドの中からしか選べないという事になります。0.3カラットのダイアモンドのご予算で、 0.5カラットのきれいなダイアモンドを選べる事もできます。0.5カラットのご予算で0.7カラットの物を。0.7カラットの予算で1.0カラットと。
私は、これは素人がダイアモンドや宝石を販売してきた悪しき結果だと思います。鑑定書を説明するだけでまるで専門家のような雰囲気が漂います。この事で は、私を含めGIAの卒業生であるG.G.(Graduate Gemologist 米国宝石学会認定鑑定士と訳されています)の責任も大きいと感じています。その反省も含め当店では、自由な選択ができる環境をできるだけ整えていきたいと 思っている次第です。